
「高層ホテルの1階ラウンジ。ソファに腰掛けて、彼女を待つ。背後には妻の明日の健診を控えた雑音。俺の両世界が、静かに重なる瞬間。」
夜20時。ホテル1階ラウンジ。
静かな混雑。グラスがぶつかる音、軽い笑い声。
彼女が出てきた。黒いワンショルダーがぴたりと彼女の肩に寄り添う。
「りょうちゃん、遅れてごめんね」
「いいよ。待つ時間も含めて、美酒だ」
そう言うと、彼女はカプチーノの泡を指で撫でる。
部屋に行く前の前置き。儀式。
1時間前。妻のLINE。
妻: 「明日健診だから体調整えてね」
僕: 「了解。夜遅くならないように」
妻: 「うん、気をつけて」
画面を閉じる。
隣のソファに彼女。
「明日、大事なんだね」
「うん。君には言えないけど」
彼女の瞳が瞬く。
22時。部屋へのエスカレータ。
手すりに沿って、彼女の手が俺の腕を軽く触る。
「りょうちゃん、好きな曲かけよ」
「うん。いいね」
ジャズが低くまず一音。
ベッドに流れる時間。
「ねえ、Aさんって、完璧主義者でしょ」
「それは君が教えてくれた」
「だったら、秘密も完璧にして」
彼女が笑う。
その笑顔が、夜を塗り替える。
深夜0時。チェックアウト前のコーヒー。
カウンターでブラックを受け取り、窓の外を見る。
雨が街を滑る。
「りょうちゃん、明日は早起きだ」
「だから今、君を独り占め」
コーヒーの苦味が、得をしてる罪悪感と混ざる。
それが、うまかった。
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フィクションです。この物語は実在の人物・団体とは一切関係ありません
