コンサルA(@Consultant_A_)
「人生のプレゼンは、家族と仕事だけじゃない。選んだ相手に対しても、いつだって紳士でいなきゃいけない。たとえそれが、誰にも言えない関係だとしても。」

土曜9時。ホテルの朝食ラウンジ。
白いテーブルクロス、静かなピアノ。
隣の席では、スーツ姿の夫婦が新聞を分け合っている。
俺の前には、ワッフルとエッグベネディクト。
向かいには、カーディガンを羽織った彼女。
「りょうちゃん、今日仕事あるの?」
「午後から少しだけ。午前は君の時間」
そう言うと、彼女はコーヒーをひと口。
嬉しそうに、でもどこか試すみたいに目を細める。
「ねえ、いつか…一緒に旅行とか、できる?」
ナイフが皿に触れて、僅かな音を立てる。
「できるよ。ちゃんとタイミング作る」
嘘じゃない。ただ、永遠に来ない約束でもある。
10時半。ホテルの外で。
タクシーを拾う前、彼女が腕を掴む。
「りょうちゃんさ…最近、優しすぎない?」
「なんだよ急に」
「本当の優しさか…それとも、後ろめたさのやつ?」
心臓がほんの少しだけ跳ねる。
成功者は、嘘よりも沈黙で自分を守る。
「俺は、君を大事にしてるだけ」
「…なら、信じておく」
微笑みながら、でも目が揺れていた。
タクシーのドアが閉まる音が、妙に重い。
正午。自宅リビング。
香りのいいハーブティーの湯気。
妻がクッションを直しながら、ふとこちらを見る。
「最近ね、落ち着いた顔するようになったね」
「仕事の波が安定してきたからかな」
「あ、そうなんだ。…よかった」
テレビの音と、静かな午後。
優しさは時に、暴く力になる。
妻の視線が、ふと俺のシャツの袖口を眺める。
そこに、昨夜の口紅は…無い。用意周到さは美徳だ。
「ねえ、来月少し旅行行かない?二人で」
「いいね。温泉でも行こうか」
笑顔を返しながら、胸の奥で小さな警報音。
予定表の中で、二つの“愛”が重なる可能性。
夜。バーで一人。
グラスの縁を指でなぞる。
今日だけで二度、未来の約束をした。
ひとつは幸福の形。
もうひとつは、贅沢な嘘。
どちらも、手放す気はない。
ただ、バランスを失った時が終わりだ。
スマホが震える。
彼女: 「りょうちゃん。来週の金曜、会える?」
指が一瞬止まる。
返信は、氷が解ける音と同じタイミングで。
俺: 「もちろん。君を優先するよ」
完璧な嘘は、優しさの形をしている。
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この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません
